トラちゃん:ラブラドール・レトリバー 前十字靱帯断裂
前十字靱帯は犬の整形外科疾患の中では発生頻度が高く、小型犬は中高齢、大型犬は若齢からでも発生する傾向があります。
この靱帯は体重をかけた時に膝の安定性に寄与し、断裂すると大腿骨に対して脛骨の前方への変位が起こり、関節の動揺や半月板の損傷、続発的な変形関節症を起こします。
靱帯断裂の原因はほとんどの場合、外傷ではなく慢性の靱帯の変性によるものと考えられています。また遺伝学的要因、過体重、過度な脛骨高平部角度や狭い顆間、膝蓋骨脱臼、内分泌疾患も断裂の促進因子と考えられています。
トラちゃんは11歳8カ月齢に右の前十字靱帯を断裂し、当院で手術(TPLO: 脛骨高平部水平化骨切り術)を行いました。術後は歩様は正常になりましたが、今回、1年後の12歳8カ月齢に左の前十字靱帯を断裂し、足をかばうようになり来院しました。
前十字靱帯は片方が断裂した場合、4割近くが17カ月以内に対側の断裂をするとの報告もあります。両側同時に断裂することもあり、この場合は後肢で起立することができないこともあります。
トラちゃんは大型犬では高齢になりますが、各種検査で異常がなかったため、前十字靱帯断裂時に有効な脛骨の矯正骨切り術を行うことになりました。
当院では、犬の前十字靱帯断裂の手術は、ほとんどのケースで小型犬から大型犬まで脛骨を矯正骨切りするTPLOを行います。
犬は正常でも膝関節の脛骨の角度が平均25°程度傾いています。中には40°以上傾いているケースもあります。脛骨を骨切りしてこの角度を0~6.5°程度に補正すると、前十字靱帯が断裂したままでも膝の不安定性が解消されるという手術です。
脛骨近位の関節の平らな場所(脛骨高平部)を水平にする手術なので、脛骨高平部水平化骨切り術(Tibial Plateau Leveling Osteotomy :TPLO)と呼ばれ、術後の成績が大変良いため、世界各国で行われるようになっています。
トラちゃんも2度目のこの手術を受けることになりましたが、術後早期に後肢をつけるようになり、歩き方も正常になりました。
前十字靱帯断裂 術前
前十字靱帯断裂 TPLO術後